LOGIN第一試合から順調に試合は進んでいき、彼は順調に駒を進め、
決勝まで来たのだが相手は先日のユニコーン騒ぎでひと悶着あった白髪の剣士だ。「これよりBグループの決勝戦を開始します!
えー、一番と八番の決勝戦ですが、 なんとお互いに真剣を使っての試合を望んでいるようです!」決勝戦ともあればある程度のわがままは通るはず。
どうやらお互いに考えていることは同じようだった。「ただいま入った情報ですが、
事前にお互いが大会運営に直談判し、運営はこれを許可したそうです! さぁ盛り上がってまいりました!」観客から歓声が上がる。
「では改めまして、Bグループ決勝戦!始めてください!」
お互いに目線を合わせ、自前の愛刀をまずは一本抜いて見せる白髪の剣士。
彼は最初から魔力糸で年季を感じる鉄の剣に接続し、
剣を浮遊させている状態で待機させる。「嬉しいね。こんな老いぼれに初めから”それ”で戦ってくれるのかい」
「そういうあんたは初めから二本抜かないんだな」
「おうさ、こんな楽しい戦いに初めから全力で戦ったらもったいねぇのよ」
「そうかよ」
「ではまずこちらから行くとするかね」
瞬間、白髪の剣士の姿が消える。
細身の剣士の膂力とは思えないほどの速度で、彼の背後に回り込む。
それを目の端でしっかりと追えていた彼は上体を反らし突き技を躱す。
「やるね」
白髪の剣士が彼の背後から攻撃を繰り出したと同時に、
彼の魔力糸で接続された剣が更に白髪の剣士の背後から音もなく切りかかる。死角からの一撃を突きの動きから連動する形で、
左手に剣を持ち替えノールックで迎撃する。木剣同士では決して出ることのない真剣同士の衝撃音が響き渡る。
ガキィインと大きな音が闘技場内に響くと同時に、
会場がどよめくと同時に沸き立つ。空中の剣と鍔迫り合いをする形だが、注意は彼に向けられたまま。
剣同士でぶつかっていては彼の攻撃を防ぐことはできない。
この大きな隙を逃すはずがない。
素早く体制を立て直し、上段から繰り出される一撃は白髪の剣士を捉える。ことはなかった。右手で腰に差した二本目の剣を素早く抜くと、
彼の放った両手からの一撃を受け流すように刀身を滑らせて防御する。一連の動きがお互いに不発になり、一旦距離を取りあう。
「いやぁ、こんなに早く二本目を抜くことになるとはね、
そのフワフワしている剣の技術、名前はあるのかい?」「浮遊剣」
「なるほど、浮遊剣ね。
どうやって制御しているかはよくわからんが、その剣からも魔力を感じる。 だからユニコーンの時と言い、自在に操れるってわけか」ユニコーンを討伐したときにこの白髪の剣士が口パクで言ったことを思い出す。
(空中のあの技、見事だった)
(隠したいんなら、もうちょいうまくやんな)
「今更だが、何やら隠しておきたい技術だったようだが、見せてよかったのかい?」
「かっこいいところを見せるって約束したからな」
「そうかい」
「次はこちらから行かせてもらう」
右足に魔力を集中して、ユニコーンを突進して討伐したときと同じ構えを取る。
彼の姿が消える。最初に白髪の剣士が見せたよりも速く、
そしてユニコーンを倒した時よりも速い速度で突進し中段から薙ぎ払われる。「それはもう見た」
白髪の剣士は後退や横に移動するのではなく前進で彼の攻撃を躱す。
下手に剣同士で打ち合うと最悪武器が破壊される強度で繰り出されたことを瞬時に理解し、
行動に移すまでの時間の短さ(この男、相当戦闘に慣れているな)
「もらった」
白髪の剣士が彼の肩口めがけて繰り出されるが、
これも彼の操る浮遊剣で防がれる。お互いに攻めと守りがめまぐるしく入れ替わるが、膠着状態が続く。
(剣のみでは埒が明かないな)
早々に剣のみの果し合いに見切りをつけ、
両手で握っていた剣も浮遊剣にする。「剣でだめなら、そらきた!」
無数のファイアボールが白髪の剣士に向けて射出される。
始めから槍や矢、果ては手裏剣のように形状変化し、
回転しながら白髪の剣士目掛け様々な軌道から接近する。これを剣で弾き、躱し、防戦一方になるが。
着実に相手の狙う癖を覚えていく。まさに年季の入った防御態勢。
これをすべて受け流し切った後に、彼を見ると
手の上には浮遊剣を形状変化させた螺旋を描いたような形に、
強引に捻じ曲げられた剣というより槍に近い形状へ変化させていた。「なんだい、そりゃあ」
思わず白髪の剣士が溢す。
そう、彼の神髄とは形状変化でもなく、性質変化でもなく。
念動魔術だったのだ。
この念動魔術によって、
剣が捻じれ、空間に強引に固定することで自壊を防ぐ。螺旋剣を魔術で形状変化させた火の大弓に番えたと同時に、
螺旋剣が高速で回転を始め、風切り音が響き、砂埃が舞う。白髪の剣士はじわりと脂汗が滲むのを肌で感じる。
久しぶりに死のイメージが沸くが、
これを受けきれば俺の勝ちだという漠然とした直観が表情をにやりとさせる。(この状況で笑うか)
彼もあの狂戦士に合わせて更に回転数を上昇させる。
これ以上は本当に殺しかねない。だが、殺すつもりでこの技を放たなければきっと負けるだろう。
考えていることはお互いに同じ。極限まで貫通力が高められた螺旋剣が放たれる。
それを躱せない速度で、狙いも胸元目掛けて正確に。
白髪の剣士はこれを受け流そうと二刀で構える。螺旋剣と二刀がぶつかる。
ギュイィィィンと剣同士が衝突したとは思えない音が響き渡り、これを神業の如き反射神経で正確に受け流そうとしたが、刀身から螺旋剣を滑らせられなかった。
二刀に一瞬でヒビが入り、螺旋剣は白髪の剣士の愛刀を粉々に打ち砕いた。
砕けたことが幸か不幸か、衝撃で螺旋剣の軌道がほんのわずかに変化し、
白髪の剣士の頬を掠めていく。頬から鮮血があふれ出るが、
(この程度で済んだのは奇跡だな。今までありがとうよ。お前たち)
あったのは勝負に負けたことへの悔しさや、
愛刀を破壊されたことへの怒りではなく、 今まで苦楽を共にしたことへの感謝の念だった。降参の意味も込めて白髪の剣士が手を上げる。
「勝負あり!勝者八番!Bブロック優勝!」
これでBブロックトーナメントは終了。
残すはAブロックで優勝した奴との特別試合となる訳だが、
ここで大会運営アナウンスがかかる。「特別試合は魔法、魔術の使用を禁止致します。
つきましては、特別試合は木剣のみとさせて頂きます」繰り返しアナウンスが放送される。
明らかに彼の行動を制限する為であることは間違いないだろう。そうまでして勝たせたいのがAブロックの相手という訳だ。
選手控え室から出て、軽く昼食を摂ろうと外に出ると、宿屋の親子が彼を待っていた。「お兄さん!かっこよかったよ!すごーく強いんだね!」
「君にいいところを見せようと頑張ったよ」
「ホントにアンタ何者なんだい?」
少し呆れた表情で女店主が笑っている。そして思い出したように
「アンタ、これから昼飯だろ?うちで食ってくかい?」
「ああ、そうする。頼んだ」
「じゃあもっと試合のこと、聞かせてね!」
「こら!まだ試合が残っているんだから、聞くならその後にしな!」
「ぶー、じゃあ今日の夜にいっぱい聞かせてね!」
「わかったよ」
自分に妹がいたらこんな感じなのだろうか、
彼に家族はもういないが、どこか懐かしい気持ちになる。旧王朝がまだ栄えていた頃、いや、革命により没落する前、レルゲンは庭で遊んで、勉強して、少し昼寝をして、また勉強して。そんな王朝の中では平和と呼べる日常だった。幼い頃は常に両親の言う通りに生活し、決まった事を決まった通りにこなす日々。そんな日々にも疑問は持たずに、二年の月日が流れた頃、ある魔術師が小綺麗な鞄を片手に訪問してきた。「皆さん、本日はお招き頂き恐悦至極。私はナイト、ナイト・ブルームスタットと申します」「ようこそナイト殿、我が王朝へ。さっ、長旅でお疲れでしょう。どうぞお寛ぎを」レルゲンの父が挨拶を返す。普段は自分こそここの主人だと言わんばかりの態度だが、このナイトと呼ばれた人物は、父が畏まった態度に出る程の人物なのだろうか。幼い頃のレルゲンは新鮮な気持ちになり、それは青年になった今でも鮮明に覚えていた。「おや?そちらが“例”の?」「ええ、シュトーゲンになります」初めは父の後ろに隠れたが、勇気を振り絞ってナイトに挨拶を返す。「レルゲン・シュトーゲンです。初めまして」「とっても礼儀正しい子ですね。初めましてこんにちは。今日から貴方の魔術の先生になりました。これからよろしくお願いしますね。シュトーゲン君」ナイト先生の授業はとても難しく、魔術理論に関してはさっぱり理解できなかった。それでも、何日かに一度の課外訓練は楽しかった。「ねぇナイト先生、今日は何を教えてくれるの?」「そうですねぇ、シュット君は座学がまだまだですが、実技が素晴らしいですからね。今日は念動魔術について教えようと思います」「それ知っているよ!お屋敷の人がよく使っている、魔力の糸を使うんでしょ?」「そうです。でもこの魔術は、お屋敷で使える人はいないと思いますよ」「そうなの?どうして?」「魔力で糸を作らず、ただ自分の意思のみで有りとあらゆる“事象の操作”ができる魔術です」「事象の操作?」ニコッとナイト先生が笑う「例えばそうですね。シュット君、今欲しい物はありますか?」「うーん、新しい剣が欲しい!」「それはまた何故でしょうか?」「お父さんが言っていたの。真の戦士は、剣と魔術、どっちも一流?なんだって!」「それは素晴らしい考えですね。私は魔術以外が全くなので、もしそれができるようになったら、シュット君は私以上になれ
次に彼が目を覚ましたのは、闘技大会があった日から三日後だった。「お姉さん!お兄さんが目を覚ましたよ!ほらお姉さんも起きて!」「えっ!彼が起きたの?」机に突っ伏して寝ていたマリーががばっと勢いよく起き上がる。「はしたないぜ、嬢ちゃん」少し呆れながら笑い、差し入れと思われる袋を片手に扉を開ける白髪の剣士。「うるさいわよ、ハクロウ」徐々に意識がはっきりして、全身の痛みに気が付く。手には厳重に包帯がまかれ、全身にも薬草を染み込ませたであろう包帯がグルグルとまかれていた。マリーに起こしてもらい、ゆっくりと座る。「そういえば、アンタの名前、聞いていなかったな」「なんか遅すぎる気もするが。自己紹介をさせてもらうぜ。俺はハクロウ。姓はない。ボウズ、嬢ちゃんを護ってくれて感謝する。あれは俺じゃどうにもできなかった。本当にありがとうよ」「それで?そろそろ貴方の名前を教えてくれてもいいんじゃないの?私の英雄様」少し考える。だが、短期間とはいえ共に過ごした中だ。この人達なら、きっと受け止めてくれる。「俺は……俺の名前はレルゲン、レルゲン・シュトーゲン」場が一瞬凍り付く。だがその場を引き戻したのは、やはりマリーだった。「レルゲン…もしかしなくても「旧王朝」の名よね。学が高いことを言うと思っていたわ」未だに緊張している状態のハクロウ。今ここに剣があったとしたとしたら、恩知らずな行動に走っていたかもしれない。「ハクロウ、彼は経歴はともあれ、暗殺されそうな私を助けたお方よ。控えなさい」「すまねぇ、頭ではわかっちゃいるんだが、どうかしちまってるな。でもよ、感謝していることだけは本当なんだ。信じてほしい」「いいさ、こうなることをわかって俺も名乗ったんだ。気にしないでくれ」「なんか難しくてよくわからないけど、みんな仲良しってことだよね?」「そうよ。みんなで乗り越えた。だから仲良し!」「おいしいところは全部レルゲンが、いや、やっぱりボウズはボウズだわ。このボウズが持って行っちまったがな」「もう!水を刺さないでよね」下の方から賑やかな気配を察してか、女店主が一声かける。「この街の英雄様がお目覚めなのかい?賑やかなのも結構だけどさ、水でも持っていってやんな」「あたし行ってくる!」元気に階段を降りていく店主の娘。どうやら宿屋の親子
「貴方の企みは潰させてもらったわ」「お前に話すことは許可していなぁぁぃいいい!!!この卑しい雌豚がぁ」今までの口調とは打って変わり、中性的な声からドスの効いた男性の声へと変わる。「いやぁあん、ワタクシッたら。いっけなーい!てへっ?」(上空からすでに投擲していることに気づいたか!勘のいい奴だ)幸い魔物の動きは鈍い、耐久力と、攻撃、防御力が高いタイプだろうことは魔力反応を見ればわかる。闘技場の上空は幸い何も障害となる建物がなく、青々とした空が広がっている。「そこからお退きなさい、アシュラちゃん」(主人の命令には従うタイプだな)「いやねぇ、不意打ちだなんて。せっかくのお祭りなんですもの。もっと楽しみましょ?それに貴方、随分とこちらを探っているようだけど、狙い通りにいくかしらね?」「さあな」投擲された剣がアシュラと呼ばれた魔物めがけて飛ぶが、これを必死に躱そうと動く魔物。空中で自動追尾された無数の剣たちは正確に魔物へと突き刺さる、はずだった。重力と念動魔術を合わせた剣の雨は正確に魔物へと命中したが、体を覆う甲殻のようなものが剣を弾いた。ガキィイインン!!!大きな衝突音が響き渡る。まるで剣と剣が衝突したときに出るような轟音。剣は衝撃に耐えられずに派手に火花を上げて粉々に砕け散り、ユニコーンを屠った時以上の攻撃があっさりと防がれる。残った剣は空中に帯同させていた二本の剣のみ。「あっらぁ?アシュラちゃんが強すぎて、全く攻撃が通らなかったわね?じゃあ次はこっちから行っちゃおうかしら!ここで息の根止めてやるわ、雌豚」「あいつ、殺すわ。二回も、二回も雌豚って言った!」「高尚な術が使えるようだが、用い道がいけねぇ。老体に鞭打つときかね」二人の絶対殺す宣言に、彼は少しだけ引いた。「あら?やる気?この五段階目のアシュラ・ハガマに勝てると思っているのかしら、ね!」五段階目の魔物。中央王族機構筆頭の近衛騎士団が束になってようやく足止めできる強さの魔物と言っていいだろう。その大人数で相手する魔物をたった三人で相手しなければならない。加えて、まだどんな手段で攻撃を行うのかわからない仮面の男。素人目にも、戦況は絶望的だった。言い終わると同時に暗殺ギルドの長らしく黒く塗りこんである暗器をこちら目掛けて投擲してくる。マ
まばらに逃げ始めている観客を避けつつ、もうじき魔物がいる場所まで辿り着いた。魔物が近くなるにつれて、彼らとは逆方向に逃げる観客が増えてくる。それにぶつからないように速度を殺さず向かうと「ガァァァアアアア!!!!」魔物の声が響いている。幸い魔物を避けるように観客が退避はしているが、いかんせん戦闘するには狭い空間だ。魔物が移動したら被害が大きくなるのは必至。(あれはウルフファング…!)「俺が牽制する!その隙に一撃頼んだ」「分かったわ」魔物を視認する。ウルフファングは三段目の魔物だが、近々四段目に昇格するのでは無いかと噂になっている。主な生息域はユニコーンと同じ森の奥地。本来群れで行動することで知られているが今回は一頭のみ。成獣だと思われるが、先程の咆哮といい、まともに音圧を受ければたちまち体が数秒間硬直して動けなくなる。既に躱した観客の中にも硬直し始めている人もいた。今はまだ魔法陣付近にはいるが、いつ動き出しても不思議はない。「また咆哮がくるぞ!」(先程よりも大きい咆哮を出すつもりか)彼らが接近してきたことに対する、臨戦体制に入ったことへの合図。「咆哮は何とかする!構わず突っ込め!」ウルフファングが咆哮を上げるよりも早く、自分とマリーの耳に小さいウォーターボールを出現させ、耳を保護。「きゃっ?!」と驚いたような声を一瞬あげるが、速度は緩めずにウルフファングまで駆ける。加えてすぐに音の衝撃波の直撃を防ぐために、帯同していた十本の剣を横一列に並べる。「ガァァァアアアア!!!!!!!」先ほどとは比べ物にならない音圧でウルフファングの咆哮が響き渡るが、二重に対策された二人は硬直することなく突っ込み続ける。咆哮が終わったとほぼ同時に剣の間合いに入り、下段から垂直に首元へと真っ直ぐ軌道を曲げられた二本の剣が、ウルフファングの首を捕らえたかに見えたが、四段目に昇格が控えているだけあって反応が速い。薄皮一枚を切り裂き小さく鮮血が上がる。上体が逸らされ更に懐が広くなり、この隙間にマリーが素早く潜り込む。戻ったときにはマリーが頭の真下に位置取り、うまく死角に入った。「やぁぁぁああああ!!」裂帛の気合いで死角からの一撃。元々の剣の切れ味の良さも相まってか、滑るようにウルフファングの首が落ち、魔石へと還る。
後一歩のところで上空に感じた覚えのある魔法陣が闘技場全体を覆う。お互いに戦闘を瞬時に中断し、何が起きているのか情報を集めようと周囲を見渡す。(これはユニコーンの時と種類は違うが、同じ奴が起動しているな。となると魔法が飛び交っていた闘技場の魔力を使ってまた魔物を召喚するつもりか?だがそれならもう対策はある)彼が右手を空に掲げ、自身の知覚できる感覚を広げる。仮想的に可視化させた周囲の環境を取り巻く魔力を一点に集めるべく、魔力糸無しで念動魔法を発動させる。だが、彼の思惑通りにはならなかった。確かに魔術の発動は出来た、一瞬だが周囲の魔力を集めることも。しかし、魔術の「継続」が出来ない。(これは、消滅魔術か…!)消滅魔術とは魔法や魔術の発動を検知、即ち魔力が体外に放出された段階で消滅させる魔術だ。これもまたユニコーンの時と同じ魔術師がやっているのだろうが、こんな代物扱える人物など世界に数えるくらいしかいないユニーク魔術に近いほど珍しい。ここで始めて事の重大性に気づく。(どんなに犠牲を払ってでも消したい奴がこの中にいる…!)足に魔力を込めて垂直跳びをする。純粋な筋力による跳躍と、魔力による跳躍の付加。その高さおよそ二十メートル。跳躍しきってから念動魔術による空中浮遊が即座に消滅魔術によって落下を始めようとする。しかし落下を始めるよりも速く、念動魔術を再度発動。再度、念動魔術の消滅。再度、念動魔術の発動。この消滅と発動の繰り返しを高速で繰り返すことで空中浮遊を維持する。始めに魔力を集めようとした方法を思い出し、空中の残存魔力の流れを感知、魔法陣の位置を逆探知する。(一、二、三、四……五個だな)五か所から魔力を吸い上げており、星形の頂点を位置する場所に魔法陣が張られているようだ。観客はまだ彼女との戦闘の最中で彼がルール違反をしたと思っている。空中浮遊を解除し、大会運営に用意されている椅子が集まる上座目掛けて移動する。この異常事態を伝えるために大会運営席に到着したが、一歩遅かった。黒衣のフードに身を包んだ連中が、恐らく毒が仕込んである武器を片手に運営陣を拘束している。それを見た彼は毒武器を魔力糸無しで操り、毒武器の所有者に向けて刃先を強引に向かわせた。何とか抵抗しようと力を込めるフードを被った賊の抵抗空しく
大会もいよいよ最終戦木剣のみの打ち合いになる相手はどんなお貴族様かと思っていたら「なるほど、相手は君か」「ええ、まず試合が始まる前に謝罪をさせて頂戴。私が有利になるルールに何度も変えさせて」「いいさ、結果は変わらないからな」「ふふっ、貴方そんな冗談も言えるのね」その冗談とは、これほどまでの縛りルールでも勝てると思っているのか。またはそんな減らず口を言えるタイプだったのかと思っているのかは分からないが、お互いに決勝まで駒を進めてきたもの同士。気分が高揚していた。「特別試合、始めてください!」最初に動いたのは彼女の方だった。木剣の種類は彼女の背丈には不釣り合いな長さで、両手で主に扱うロングソードに近い形状。それを片手で簡単に上段へ振りかぶり、飛び上がる。剣本来の重量と、彼女の並外れた膂力。飛び上がってから振り下ろされるまでの間に落下する重力を掛け合わせた、必殺の一撃。一連の動作速度も申し分ない。これをまともに受ければ幾ら彼でも木剣を破壊されて試合続行不可能となり判定負けとなるだろう。だが、巨大な威力を持った一撃を受け流す方法は白髪の剣士との対決でよく「見た」彼女の一撃が彼の剣に当たってから、上体を捻りながら剣同士を滑らせて受け流す。「なっ」(その技は先生の…!)(悪いな嬢ちゃん、技見せすぎた)このまま剣を滑らせながら前進し、彼女の腹に一撃を加えて試合終了かと思いきや、片手で振り下ろされたロングソードを両手で持ち直し、無理矢理空中でガードの体制を作る。木剣同士が打ち合い、彼女が開始位置まで飛ばされるが、これを自慢の膂力で何とか姿勢を崩さない。着地の際によろけるなら、そのまま追撃をしようと準備していた彼だったが、不発に終わる。「貴方、真似っ子は随分とお上手なのね」「そちらこそ、見た目によらず力強すぎるだろ。何食ったらそんな力つくんだよ」「失礼な!食べているものは普通よ!」食べる量について言わない辺り、大飯食らいなのかなと思ったが、その後の展開が容易に想像できたのでやめておく。今度も先に仕掛けたのは金髪の彼女。だが今度は飛び上がらずに地上で細かく攻撃を仕掛ける。彼はまだロングソードの遠い間合いで、あたかもショートソードの用に扱う彼女に対応がやや遅れている。それでもまともに打ち合わず、躱し、いな







